青春のロシア・アヴァンギャルド@岐阜県美術館
岐阜県美術館の正面にある印象的な形態の彫刻はヴァレリアーノ・トルッビアーニ《錨を上げる》。曇の予報に反してきれいに晴れ上がった青空に浮かび上がらんばかりです。
20世紀初頭のロシアにおける前衛的芸術運動、ロシア・アヴァンギャルドの展覧会。日本初公開となるモスクワ市近代美術館の所蔵作品63点によりシュプレマティズムや構成主義などを概観します。Bunkamura ザ・ミュージアム、サントリーミュージアム[天保山]ですでに開催され、この後は埼玉県立近代美術館へ巡回。
まずはI-1「西欧の影響とネオ・プリミティヴィズム」。キュビスム、未来派、フォービスムなど西欧に起こった新たな表現のロシアへの影響、そしてイコンやルボーク(民衆版画)といったロシア独自の芸術に根ざすネオ・プリミティヴィズムの作品を観ていきます。ラリオーノフやゴンチャローヴァといった画家たちはこれまでまったく意識したことがありませんでした。特筆すべきまでの作品はそれほどありませんが、グリゴーリエフ《女》やアニスフェリド《シュラミの娘》などの裸婦像はちょっと目を引きます。ルボークはパネルで参考展示。味があっていいですね。もっと見てみたい。
I-2「見出された画家ピロスマニ」の10点はなかなかの見応え。その日のパンとワインのためにドゥハン(居酒屋)の看板や壁の絵を描いていたというグルジアの放浪の画家で、前衛の画家たちに「発見」され名が知られるようになったといいます。その作風は極めて素朴ですが、何か惹きつけられるものがあります。《宴へようこそ!》はまさに居酒屋の看板そのもので、金属板に描かれています。人物を描いた作品、動物を描いた作品のいずれも魅力的。
II「マレーヴィチと抽象の展開」。いよいよマレーヴィチのスプレマティズム(絶対主義)。ネオ・プリミティヴィズムや立体未来派などの表現を経てマレーヴィチが辿り着いたのは単に幾何学図形だけを配した「無対象の絵画」。特に白地に白の十字を描いた《スプレマティズム》は究極の段階とのこと。今観ればただの単純な絵ですが、絵画史における極めて重要な様式です。
年代としては次のセクションに属するのでしょうが、このスペースに展示されているアーキペンコの彫刻がいい。《美の賞賛、凹面の立像》はタイトルどおり凹面で構成された女性立像。本来凸部であるはずの胸を見事に凹面で表現しており、全身のスタイルも流麗です。
III「1920年代以降の絵画」。1917年のロシア革命そして内戦を経て、1922年ソビエト連邦が成立。ネップ(新経済政策)の下、前衛芸術が非難の対象となる一方で、構成主義は社会に有用な建築やデザインに応用されていきます。作品的にはあまりパッとしないセクションですが、この時代の芸術を取り巻く社会の動向は非常に興味深い。1932年、スターリン政権は全ての芸術団体の解散を命じ、社会主義リアリズムを唯一の表現方法とします。ロシア・アヴァンギャルドの終焉です。あれほどの境地に到達したマレーヴィチも具象に回帰して生涯を終えています。
ところで、ロシアを代表する画家といえばシャガールです。実は、今回の展覧会のために3点のシャガールが来ていましたが、東京展開催後、著作権を管理するパリのシャガール委員会から偽作の疑いがあると指摘され、大阪展から展示中止となっています。モスクワ市近代美術館はもちろん真作と主張していますが。作品を観てみたかったものです。
冒頭にあったモスクワ市近代美術館館長の挨拶文にもあるように、ロシア・アヴァンギャルドは、20世紀における重要な芸術運動という評価は確立しているものの、未だよく知られていない部分もあるようです。ロシアという国の地理的な距離だけではない「遠さ」も一因でしょう。今回の企画展はなかなか貴重な機会となりました。ロシアやソビエト連邦の歴史にも興味が沸いてきます。
常設は通常の5室構成。企画展に関連してアヴァンギャルド特集となっています。第1室は「20世紀後半の日本のアヴァンギャルド」として具体やもの派の作品を展示。小清水漸の2作品は以前、ホールに展示したあったときに撮影したもの。ちなみに屋外にも小清水の作品があります。
第2室はフォンタナやクリスト、リキテンスタインやジョーンズなど、第3室はゴーギャン、ムンク、ルドンらですが、第1~3室までは12月14日までの展示となっています。第4室は「陶芸のアヴァンギャルド」、第5室は「日本画のアヴァンギャルド」と幅の広い常設展でした。
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青春のロシア・アヴァンギャルド
初公開 モスクワ市近代美術館所蔵
岐阜県美術館
2008年11月11日―12月25日
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