2009年12月28日 (月)

2009年の展覧会ベスト10

2009年の展覧会ベスト10です。

  1. ルーブル美術館展@国立西洋美術館(5月)
    さすがにルーブル。フェルメール、ラ・トゥール始め傑作多数。
  2. アンドリュー・ワイエス@愛知県美術館(2月)
    見応えのある良作を集めたワイエス展。巨匠逝く。
  3. ネオテニー・ジャパン@上野の森美術館(5月)
    日本の現代アートの教科書ともいえる珠玉のコレクション。
  4. 石田徹也展@浜松市美術館(4月)
    話題の夭折画家の独特の世界観を堪能。
  5. だまし絵@名古屋市美術館(5月)
    アルチンボルドの傑作が初来日。大混雑、大喧騒の会場。
  6. 日本の美術館名品展@東京都美術館(5月)
    全国の美術館の名品が一堂に会した画期的な展覧会。
  7. レオナール・フジタ展@松坂屋美術館(8月)
    幻の大作4点が堂々の揃い踏み。資料も豊富。
  8. ヴィデオを待ちながら@東京国立近代美術館(5月)
    ビデオ・アートの歴史を辿る質量ともに充実の好企画。
  9. ヤノベケンジ ウルトラ@豊田市美術館(5月)
    ヤノベワールドを満喫、そして驚愕の新作!
  10. 琳派・若冲と雅の世界@岡崎市美術博物館(4月)
    細見美術館の名品が岡崎に。江戸琳派が充実。

今年は特に後半地味な展覧会が多く、ランクインは前半に偏りました。5月の東京遠征からは4展がランクイン。国立トレチャコフ美術館展@Bunkamura ザ・ミュージアムも入れたいところでしたが、そうすると半分が遠征組で占められてしまうので遺憾ながら圏外としました。今年の遠征はこの1回だけでしたが、本当に見応えのある展覧会ばかりでした。

地元では2位のワイエス。愛知県美術館での開催が始まって間もなく飛び込んできた画家の訃報には本当に驚かされました。名古屋市美術館は5位のだまし絵、そしてモネ《印象 日の出》展でもたくさんの人を動員しました。

今年はなぜだかは分かりませんが本当にトリックアートの1年でした。だまし絵を筆頭として、エッシャー展@松坂屋美術館トリックアートの世界@豊橋市美術博物館大江戸の賑わい展@刈谷市美術館でも戯画を観ることができました。10月には昭和区に個人のトリックアート美術館もオープンしています。

2007年の展覧会ベスト10でも同じようなことを書きましたが、展覧会としては圏外でも作品単位のベスト10なら間違いなくランクインという作品があります。今年はゴーギャン《我々はどこから来たのか~》、そして伊藤若冲《象と鯨図屏風》がそれに当たるでしょう。モネ《印象 日の出》、クラムスコイ《忘れえぬ女》も素晴らしい名画でした。

初めて訪れた美術館は浜松市美術館、一宮市三岸節子記念美術館おかざき世界子ども美術博物館、MIHO MUSEUM。そしてなんと東京国立近代美術館も初めてだったりしました。また、岐南の大松美術館が閉館ということで足を運んでみました。来年はヤマザキマザックが建設したマザックアートプラザがオープン。新栄に新たな美術館が生まれます。こちらも楽しみですね。

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2009年12月27日 (日)

ベルギー近代絵画のあゆみ@松坂屋美術館

今年最後の展覧会鑑賞です。ベルギー王立美術館所蔵作品によるベルギー近代絵画の展覧会ですが、フランス絵画からの影響を主軸に構成されており、実質はフランス絵画とベルギー絵画の展覧会となっています。

15世紀から20世紀まで約2万点の作品を所蔵するベルギーを代表する美術館から69点を揃えます。山梨県立美術館、鳥取県立博物館、損保ジャパン東郷青児美術館を巡回し、松坂屋美術館がファイナル。作品リストが用意されているのがありがたい。

展示は6セクション構成。1「バルビゾン派からテルヴューレン派へ」。ベルギー版バルビソン派ともいえるテルヴューレン派の作品など。ブーランジェはベルギー風景画の巨匠といわれる画家。影響を受けた画家の作品がこの後たくさん出てきます。

2「ベルギーのレアリスムから印象派へ」。クノップフ《ヴァン・デル・ヘクト嬢の肖像》がいい。3歳だったというモデルが可愛らしく描かれます。衣服のブルーも印象的。両隣に展示されているクリュイスナーとステヴァンスの女性像も目を引きます。クノップフではまったく異なる作風の《フォッセ、モミの木の林》もいい感じです。

3「フランスの印象派と純粋な色彩」。早くからベルギーで成功したというクールベ《スペインの踊り子、アデーラ・ゲレーロ夫人》が大きく展示されますが、何と言ってもこのセクションはアンソール。《バラの花》を始め3点が並びます。

4「ベルギーにおける新印象派」。ベルギーの美術団体、20人会がスーラらをいち早く紹介したことで、ブリュッセルは新印象派の中心地となります。ここではレイセルベルヘが見どころ。《散歩》が大きな作品で目を引きます。《シャルル・モース夫人の肖像》も見事な点描の作品。

5「光と親密さ」。クラウスのリュミニスム(光輝主義)作品が並びます。光の表現が美しいのですが、ちょっと露出過多で白とびしている写真みたいにも見えます。一方、バールツン《ゲントの夜》が素晴らしく釘付けに。花の都と呼ばれたゲントの夜の光景です。雰囲気がたまらなくよく、水面の表現も見事。シダネル《黄昏の白い庭》もらしい1枚。自宅の庭を幻想的に描きます。

最後は6「フォーヴィスム」。ベルギーでは伝統の写実性を保ったブラバント・フォーヴィスムが展開しました。が、代表的な作家であるワウテルスらの作品はあまり感じるものがありません。ボナール《逆光の中の裸婦》は同展のメインイメージ。大きく展示されます。マティス《静物、ヴェネツィアン・レッドの室内》は遠くからでも一目でそれと分かるマティスらしい作品。

ベルギー王立美術館といえば、2006年のベルギー王立美術館展をすぐに思い浮かべます。ブリューゲルからマグリットまでまさにフランドル、ベルギー美術の粋という感じの素晴らしい展覧会でしたが、今回はずいぶんとランクが下がった感じが否めません。どちらも読売新聞社の主催ですが、2006年展のバーターではないかという気すらしてきます。

しかし、フランス絵画からの影響という視点は学ぶべきところも多く、それなりに楽しめました。2009年の締めくくりとしてはまずまずといったところでしょうか。

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ベルギー王立美術館コレクション ベルギー近代絵画のあゆみ
松坂屋美術館
2009年12月12日―2010年2月14日

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2009年12月20日 (日)

Artのメリーゴーランド@岐阜県美術館

岐阜県出身の現代作家7人の展覧会。クロスアートというシリーズ名がついていますが、2003年に開催された前回展は見逃しています。

7人の内訳は日本画が2人、洋画が4人、インスタレーションが1人となっており、展示は絵画が中心です。現代アートの展覧会らしくアーティスト・トークやワークショップなどイベントがたくさん用意されていますが、今日は特に何も行われておらず館内は静かです。

まずは長谷川喜久。洋画的な作風ですが技法は日本画。《刻 刻々》はイチゴのショートケーキが描かれた作品で台に乗せられ、テーブルの上のケーキの如く展示されています。ケーキにはアリが列を成しているのですが、その列を追っていくと…。

吉本作次はすでに高い評価を確立している画家。かわいらしい人物が登場する作風でおなじみです。しかし、人物は主に下方に小さく描かれ、その上には押しつぶされそうなほどに圧倒的な風景が描かれます。単純にかわいいだけの絵ではないのがまた魅力的。そんな中で、かわいらしさを比較的前面に出した《小鳥に説教される聖フランチェスコ》もまたいい。今回は11点と吉本作品をまとまって観ることができとても嬉しい。

村瀬恭子と傍島幹司はいずれもいまいちピンと来ない。村瀬は岡崎市美術博物館の「森」としての絵画でも取り上げられていましたし、来年には豊田市美術館で個展が開催されるなど注目されている画家なのですが、個人的にはあまり感じるものがありません。

奥村晃史は動物を題材にしたユニークな作風。特に羊や山羊、豚といった家畜を専ら描きます。《ストレージ シープ》は額縁にLEDが配され絵の周囲を青白く照らします。まるで冷蔵庫の中のよう。《山羊と永劫のテーブル》は合わせ鏡を用いたり、《地上の食卓》では六角形のキャンバスを使ったりと、リアルに描かれた動物たちもさることながら非常に独創的な技法を展開します。

神戸智行は今回の最年少。水面をモチーフにした美しい日本画です。《いつもの場所で》では日本画の美しい色合いで川面の風景が描かれ釘付けになってしまいました。油彩ではこの雰囲気はちょっと出せないからなぁ。水に生きる生物たちもとても丁寧に描かれています。《マダ見ヌ未来》は他の作品とはちょっと作風が変わりますが、揺らめく水面を描いた卓越した画力の1枚。

大巻伸嗣も美しい空間表現で高い評価を受けるアーティスト。愛知県美術館のサイクルとリサイクルでも素敵な空間を創出していました。展示室では《ECHO-Crystallization-》の1点だけですが、展示室の外で作品を展開していきます。多目的ホールでは床面に《ECHO-Crystallization-》の同館バージョンを制作中。1月にはシャボン玉を使ったインスタレーション《Memorial Rebirth》を行う予定になっています。写真は鑑賞者参加型の作品《花はどこへいった》。配布されている白い花のシールを美術館正面の窓ガラスに貼っていきます。

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大巻伸嗣《花はどこへいった》

なかなか楽しめる内容に仕上がっていたと思います。岐阜県はこんなにも素晴らしいアーティストをたくさん輩出していたのかと感心することしきり。ブランケット判(新聞紙サイズ)のフライヤーの採用もユニークです。館内で貰える鑑賞ガイドも新聞のようなつくりになっており、7人のインタビューが掲載された充実の内容。岐阜県美術館のやる気を随所に感じる好企画となっています。

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話題のアーティストを紹介する クロスアート2
Artのメリーゴーランド The 7 top runners
岐阜県美術館
2009年11月10日―2010年1月24日

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2009年12月13日 (日)

近代の東アジアイメージ@豊田市美術館

近代の日本人画家が描いた東アジアを紹介する展覧会。明治から戦前までの中国、台湾、香港、朝鮮半島などを描いた作品が並ぶという非常にユニークではありますが、非常に地味な展覧会です。

豊田市美術館が非凡なのは、この企画を作家数107人、総出品数約270点という大規模なものにしてしまうところ。企画展示室的な位置付けの展示室8に加え、常設展示室である展示室6・7、さらには2階の展示室5までを使います。前後期で大幅な展示替えあり。単独企画展で巡回はありません。

展示室8から始まります。広くスペースを取って大きな作品を展示することが多い同館最大の展示室ですが、今回は可動壁を多く設けてたくさんの作品を並べていきます。「普通の美術館」のようなこの雰囲気が、同館では違和感を伴ったものになります。最初の作品は新海竹蔵の木像《砧》。

展示はエキソチシズム、女性像、場末的な風景、荒野などのテーマに分けて構成。フライヤーやポスターに使われ印象的な藤島武二《花籠》や島成園《上海にて》はどちらも意外と小さい作品ですが、やはり惹きつけられるものがあります。後者は後期のみの展示。

他に気になった作品は鶴田吾郎《蒙古の女》、森守明《搗麦》、恩地孝四郎《円波》、猪熊弦一郎《長江埠の子供達》などなど。藤田嗣治《北平の力士》は2006年の藤田嗣治展でも目にした作品。北京の力士たちを力強く描きます。

エピローグ的な位置づけの第8章「現代にて」では、東アジアというよりは韓国をテーマにした2点の現代アート作品を取り上げます。展示室7には高嶺格《Baby Insa-dong》。意義のあるテーマだとは思いますし、その言葉にも惹き込まれるものはあるのですが、やはり文章を読ませる作品はアートとは違うものだと思います。展示室5の最奥には会田誠《美しい旗(戦争画RETURNS)》。最後にこれか、という感じの刺激的な作品です。なんと普通の襖に描かれているんですね。

常設展は展示室1~4までとなります。展示室1は前回のジュゼッペ・ペノーネのときのままとなっており、今回もお茶の香りで満たされます。展示室3は若林奮や青木野枝の鉄を使った作品を集めます。木の作品のイメージが強い小清水漸も《a tetrahedron-鋳鉄》とやはり鉄。写真は杉本博司。代表的シリーズ〈劇場〉と〈海景〉から1点ずつ。

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杉本博司《CANTON PALACE,OHIO》(左)と《AEGEAN SEA,PILION》

展示室4はクリムト、シーレ、マグリット、アンソール、田中敦子、金山明、小堀四郎、宮脇晴、宮脇綾子などなど同館の常設展をぎゅっと凝縮した内容。企画展に多くのスペースを使っているのでこうなりますが、それでも美味しいところを厳選してしっかり魅せてくれます。

階段の下には石田尚志《部屋/形態》。部屋の壁にペンキで描いたドローイングを一枚一枚撮影してアニメーションにしたとんでもない作品です。今回、豊田市美術館では11月に夜間開館を行い、石田の作品を屋外で上映しました。前庭に設置したスクリーンや外壁に愛知県美術館のタイムスケープでも観た《フーガの技法》などを上映したそうです。わずか1週間のみの企画だったので観ることはできませんでしたが、さぞ印象的な情景だったことでしょう。

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石田尚志《部屋/形態》

今回の豊田市美術館はこれだけでは終わりません。田島秀彦 What a wonderful worldとして、なんとレストランをテーマ展の会場にしてしまいます。岐阜出身の作家で、日常の小物などを組み合わせてポップな世界を展開。ちょっとお茶でも飲んで休憩できればよかったのですが、時間もあまりなく写真だけ失礼させていただきました。

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田島秀彦《リビングのU.M.A.》

高橋節郎館でもテーマ展。いつもは高橋作品を専門に展示していますが、今回はどこまでも深い漆黒から宇宙を連想。天をイメージさせる所蔵作品を交えて天球極と銘打ちます。写真は鬼頭健吾《quasar》。回転する盤面に光が当てられ、壁に投影されています。他に野村仁など。野村作品はこの企画にはなくてはならない存在ですね。

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鬼頭健吾《quasar》

いつにも増して充実の豊田市美術館でした。みなぎってますね。最後の写真は高橋節郎館のピアノとハーブ。ピアノは螺鈿と鎗金の、ハーブは金箔とプラチナ箔のきらびやかな一品です。

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高橋節郎《ピアノ:宇宙紀行》(左)と《ハーブ:銀河饗奏》

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日本近代美術はどうアジアを描いてきたか
近代の東アジアイメージ
豊田市美術館
2009年10月10日―12月27日

田島秀彦 What a wonderful world
2009年11月10日―12月27日

天球極 漆と現代アートの饗宴
2009年10月10日―12月27日

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2009年12月 6日 (日)

オープン記念展@トリックアート美術館

昭和区にトリックアート美術館が開館したというので観にいってきました。今年はとことんトリックアートの1年です。

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杁中の東に10月16日にオープンしたのは名古屋在住のトリックアート作家、渡辺健一の個人美術館。名古屋港の旧防潮壁にトリックアート壁画を描き、2005年の愛・地球博にトリックアート作品を出品するなど地元で活動を続けている作家です。2004年、犬山にトリック繪画邸という美術館をオープンしましたが、2006年に閉館。今回、犬山からの移転というかたちで昭和区に新たに美術館をオープンさせました。場所はこちら

トリックアート美術館というと、専門の企画会社によって高尾山や那須高原や富良野などの観光地に次々と建設されている施設という印象がありますが、こちらのトリックアート美術館は店舗一軒分の広さの小さな小さな美術館です。広さはわずかに60m2ほどとのこと。

現在はオープン記念展として31点の作品を展示中。V字型の溝を連ねた板を用いたメタモルフォーゼ、本物と見紛うほどのトロンプルイユ、円筒鏡を用いたアナモルフォーズなど手法は古典的なものばかりですが、三英傑や富士山がメタモルフォーゼしたり、アナモルフォーズも円筒だけでなく円錐や四角錐を用いたりと応用で勝負している感じです。

しかし、《鶴舞公園の花菖蒲》や《リバースティクティブいりなか》あたりは地元密着の題材という点では面白いと思いますが、金昌烈の水滴やパトリック・ヒューズの逆遠近錯視という現代の作品からの完全な流用でこれはどうなんでしょうか。オリジナルはどちらも名古屋市美術館のだまし絵にて展示されていましたね。トリックアートの手法そのものには知的財産権とかはないんですかね。

このボリュームで大人600円、小人300円の観覧料はちょっと厳しいかもしれません。最初に入ったときはもう1フロアくらいあるのかと思ってしまいました。日曜の午後に1時間ほどいましたが、ずっと1人での鑑賞。せっかく近所にできた美術館ですから是非とも頑張ってほしいところですが、大丈夫かなぁという感じです。

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オープン記念展
トリックアート美術館
2009年10月16日―2010年5月31日

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2009年11月29日 (日)

絵画と写真の交差@名古屋市美術館

19世紀、写真がこの世に登場したときの画家たちの衝撃は想像に難くありません。肖像画は瞬く間に写真に取って代わられましたし、目では捉えきれない一瞬を写したその画面は画家たちに大きなインスピレーションを与えたことでしょう。今回はそんな絵画と写真の関係をテーマにした企画展。北海道立帯広美術館、札幌芸術の森美術館、ひろしま美術館、松本市美術館と巡回して、名古屋市美術館がファイナルです。

東京富士美術館の所蔵作品を中心に構成される展覧会です。図録から確認できる総出品数は絵画117点、写真262点の合わせて379点と実に膨大ですが、会場ごとの不出品により同館における出品数は約280点。前後期で約40点が入れ替わります。今回は1階と2階の企画展示室では入りきらず、いつもテーマ展をやっている地階の常設展示室3も使います。

最初に展示されているのは1839年の《ビアンキ・タゲレオタイプ・カメラ》。写真を発明したとされるフランスのダゲールによる最初期のカメラです。今年は写真の誕生から170年ということになります。

まずはI「遠近法500年の扉」。写真誕生以前の肖像画や風景画、カメラ・オブスキュラやカメラ・ルシーダなどの機器を展示。ヴァン・ダイクの《アマリア・フォン・ソルムス=ブラウンフェルズの肖像》が同展における最も古い作品。ブリューゲル〔子〕の《農民の結婚式》も来ています。

II「写真の誕生」。ダゲールによるダゲレオタイプと、同時期に写真を発明していたイギリスのタルボットによるカロタイプによる最初期の写真が並びます。思ったよりもずっと鮮明なことに驚かされますが、実用的に認められ普及を果たしたものですから当然といえば当然なのかもしれません。

III「印象派誕生前夜」は3つの小セクションに分かれます。絵画はターナー、アングル、クールベ、バルビゾン派とまさにセクションのタイトルどおりのラインアップ。一方、写真は1851年にコロディオン湿板法が発明されるなど改良が進められます。2階に上がり、印象派の画家たちに影響を与えた日本の浮世絵も展示。

IV「印象派の誕生」。モネやマネ、シスレー、ピサロとおなじみの顔ぶれ。クリムト《横顔を見せる少女》にお目にかかれたのは収穫。日本にある数少ないクリムトの油彩です。

V「モデルとしての写真」。ギュスターヴ・ル・グレイの《海景》を元に描いたクールベの《水平線上のスコール》はすでに1階に展示されていましたが、アングルやドラクロワも写真を元に作品を制作していたといいます。そして、特にこのセクションでスポットを当てているのがドガ。ドガは作品製作に大いに写真を利用しました。ドガの死後、アトリエで発見されたネガに映った踊り子たちは、光と影の効果などまさにドガの描いた絵画そのものです。

VI「ピクトリアリズム」。写真はもの珍しい新発明から一つの芸術分野へと向かっていきます。結果、その画面が絵画的なものになっていったのは必然であったでしょう。2006年に名古屋ボストン美術館でアメリカ近代写真のパイオニアとしてシリーズ展が開催されたアルフレッド・スティーグリッツエドワード・ウェストンもこちらです。

展示は地階へ。VII「絵画と写真のモダニティ」。ピクトリアリズムは終焉を迎え、再び写真はストレートな表現に。スティーグリッツやウェストンが引き続き登場し、マン・レイの《アングルのヴァイオリン》に到ります。

最後はVIII「エピローグ:新たなる“光”の考察」。現代美術としての写真です。絵画ではウォーホル、写真ではベッヒャー、そして杉本博司。定番のメンバーの中、シダネル《黄昏の古路》や佐藤時啓《ホルンド・メロン》が美しく印象的でした。

展覧会のサブタイトルには印象派とありますがこれは集客のために一応入れてあるだけで、実際は絵画と写真の関係をしっかり総括した硬派な内容。非常に興味深く観させてもらいました。ただ、2階の展示室に設定されていたラインはちょっとでした。大きな絵画も小振りな写真も一律にあの距離はないでしょう。名古屋市美術館の展示は照明や距離など何かしら疑問符が付くことが多いですね。

常設展ではベッヒャーはもちろんのことアンディ・ゴールスワージー、ラインハルト・サビエ、三尾公三らが登場。今回の企画展の内容なら当然と言えますが、やはり観たかったのでこれは嬉しい。ゴールスワージーは1点と言わずもっと並べてほしかったですけどね。

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絵画と写真の交差 印象派誕生の軌跡
名古屋市美術館
2009年10月24日―12月20日

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2009年11月22日 (日)

日本の自画像@愛知県美術館

戦後の日本をテーマにした写真展。時代を代表する11人の写真家の168点で戦後の日本を振り返ります。余りにも地味な展覧会なので単独企画展だと思ってしまいましたが(笑)、そうではなく、世田谷美術館、土門拳記念館、愛知県美術館、清里フォトアートミュージアムを巡回します。

サブタイトルにもあるように終戦の1945年から東京オリンピック開催の1964年まで、焼け野原の敗戦国から経済大国へ急速な復興を果たす激動の時代を取り上げます。展示は3セクション構成。1「敗戦の余波」では戦後間もない時代の荒廃した風景や復員兵が描かれますが、猥雑な街に生きる人々は生命力に溢れています。

2「伝統と近代のはざまで」では発展を遂げる社会にあって生活や伝統を守る人々が描かれます。祭の風景も多い。木村伊兵衛《秋田おばこ》は今回最も印象的だった作品。タイトルどおり秋田美人を捉えたものですが、凛とした顔立ちがとにかく美しい。こう言っては何ですが、とても50年代の日本人女性とは思えません。現代の女優さんのようです。

3「新しい日本へ」。そのタイトルは社会の発展を連想させますが、展示では日米安保闘争や炭鉱労働者を取り上げた作品が印象的でした。細江英公〈薔薇刑〉は5月に訪れた東京国立近代美術館の常設展でも特集していましたね。

さて、同展はフランスの若き日本写真研究家が構成したもので、世代的にも地理的にも大きな距離がある視点による展覧会ということでしたが、このあたりはちょっとピンと来ませんでした。どの写真が選外となったか分かるわけでもないですしねぇ。ごく普通に私たちが思い浮かべるような日本の戦後が捉えられていたという感じです。

企画展はここまでですが、同館ではさらに今回の写真家の1人でもある東松照明を特集。同館は2006年に開催した愛知曼荼羅の後、出品作品195点全てを作家から寄贈されていますが、今回は70点を再掲します。

常設展は展示室4が西洋美術、展示室5では大々的に日本の洋画を特集します。トリエンナーレのプレイベント第4弾、展示室6のテーマ展は宮永春香 陶の表象アーツ・チャレンジ2009にも出品していた新進の陶芸アーティストです。写真はそのときにも展示されていた新作〈FEITICO〉シリーズの1点。編み物に泥漿をかけて焼成された作品です。他に2003年の作品〈虚(そら)と骨〉シリーズを展示。

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宮永春香《FEITICO》

展示室7は川瀬巴水。小川美術館から寄贈された2008年1月以来のお目見え。短いスパンでの再登場は人気がある証拠ですね。ラウンジにはプレイベント第5弾、市川武史 オーロラとして絵画ともオブジェともつかぬ円筒形の《オーロラ》が登場しています。

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市川武史《オーロラ》

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写真が描く戦後 1945―1964
日本の自画像
愛知県美術館
2009年11月6日―12月13日

宮永春香 陶の表象 虚(そら)と骨からFEITICOまで
2009年11月6日―12月20日

市川武史 オーロラ 絵画/彫刻
2009年11月6日―12月13日

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2009年11月15日 (日)

景 projection/reflection@名古屋市民ギャラリー矢田

カルポート東、名古屋市民ギャラリー矢田に久しぶりにやってきました。実に2006年の玉本奈々の世界以来です。

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風景をテーマにした現代作家の展覧会。芸術文化の総合イベント、名古屋市民芸術祭2009の一環として行われているものですが、芸術祭も展覧会も市民に浸透しているとは言い難い印象です。今日が最終日ですが、鑑賞者はまばら。

市民ギャラリー矢田は4階に第1展示室、3階に第2~7展示室があり、今回は全ての展示室を使います。展示室1は染谷亜里可と近藤正勝。染谷はおなじみのヴェルヴェットの作品〈Decolor〉シリーズの新作。深紅の生地の作品が多い印象のシリーズですが、《Decolor-Monster 4》は暗青色のヴェルヴェットを使っています。近藤は樹木がボートを突き破る《ROOTED BLUE BOAT》など不思議な風景を描きます。

第2展示室は同じく近藤と古池大介。近藤の〈Mountain〉シリーズは一見美しい山の風景ですが、カシミールなどのGISで生成したような不自然で無機質なイメージでもあります。古池は何気ない風景写真ですが不思議な魅力があります。《Alumi》や《Bros》など扉を映した写真も面白い。

第3展示室は染谷と磯見輝夫。〈Decolor〉の他にも染谷の絵画作品を観ることができます。昨年の名古屋市美術館、「版」の誘惑展でも目にした磯見の大型木版画は今回も版木とともに展示されます。

第4展示室は吉岡俊直。1枚のスクリーンの両面に2つの映像作品が映し出されます。手前側は《TEARS》。様々な色の水滴がフローリングに畳にとこれまた様々な種類の床面に落ちていき飛び散る光景が延々繰り返されます。そのハイペースな進行は観ていてドキドキするものがありますが、しばらく観ていると水滴が飛び散るパターンが全て一緒だったり、どのような床面であっても挙動が変わらなかったりと物足りなさも感じます。反対側は《BIRTH》。天井から滴り落ちる水滴を映し、まさに《TEARS》の対となる作品ですが、こちらは打って変わってなかなか滴が落ちずにじれったい感じ。

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吉岡俊直《TEARS》

第5展示室は冨谷悦子の細密なエッチング。第6展示室は村上史明。展示室には望遠鏡と机の上に顕微鏡が。望遠鏡は《Spyglass》、顕微鏡は《Humanscope》と題されています。どちらも覗くと意外な光景が。《Spyglass》は360度自由に回転させて観ることができます。第7展示室は唯一、現代アートではなくなります。大正時代のアマチュア写真クラブ、愛友写真倶楽部のゴム印画技法による貴重な風景写真が並びます。

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村上史明《Spyglass》(手前)と《Humanscope》

作品の粒も揃っていてなかなか面白い展覧会になっていたと思います。もうちょっと作家や作品が多ければ普通に名古屋市美術館あたりで開催されてそうなレベル。ガラガラに空いていたのと、この短い会期がもったいないところです。

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景 projection/reflection
名古屋市民ギャラリー矢田
2009年11月4日―11月15日

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2009年11月 6日 (金)

若冲ワンダーランド@MIHO MUSEUM

若冲を観にMIHO MUSEUMまでやってきました。信楽の山の中にある美術館ですが、クルマ利用なら新名神高速道路・信楽ICを利用して比較的スムーズに辿り着くことができます。

宗教法人神慈秀明会が巨額の費用を投じて建設した空前のスケールの美術館です。1997年の開館。設計はルーブル美術館のガラスのピラミッドで知られるイオ・ミン・ペイ、館長は『奇想の系譜』の辻惟雄と超一流のスペックを誇ります。

駐車場に隣接してレセプション棟があり、ここから「桃源郷への散歩道」と名付けられた道路を通って美術館棟へと向かいます。距離にして500mほどあり、送迎の電気自動車が運行されていますが、徒歩でも数分ですので歩いて向かうことにします。両側は桜並木、春はさぞ綺麗なことでしょう。

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坂をしばし登るとトンネルに入ります。そしてトンネルを抜けると今度は沢を斜張橋で越えるのですが、この構造がまたすごい。アーチ型の主塔からトンネルの坑口にアンカーを取っています。反対の美術館側は逆斜張ケーブルがキングポストという支柱を持ち上げるような形式。一見奇抜なようですが、構造的にはシンプルで経済性にも優れているとのこと。

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ここまでの大掛かりな造りに対し、美術館棟の入口は山寺のような小ぢんまりしたものに見えます。しかし中に入るとガラスのピラミッドを髣髴とさせるエントランスホールにまたしても驚嘆することになります。

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企画展は通路を通って北館へ。こちらもエントランスと同様のスペースフレーム構造で外光を眩いばかりに取り入れます。北館の展示室は中庭を囲んで一周するような造りになっており左回りに観ていく配置になっています。

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さて、お昼前には駐車場に到着していましたが、あちこち見どころが多くここまで来るのにずいぶんと時間がかかってしまいました。やっと若冲です。今回の若冲展は昨年12月に北陸地方の旧家から見つかったという《象と鯨図屏風》を初めて公開する展覧会です。若冲ならではの極彩色の作品こそ少ないですが、水墨画を数多く集めてきました。あまりお目にかかる機会のない個人蔵の作品が多いのも特徴です。

一方、会期はなんと6期に分かれています。展示作品は複雑に入れ替わり、全ての作品を観るのは至難の業。目玉の《象と鯨図屏風》は全期間展示になっていますので、今回は時期にあまりこだわることなく、平日に休みが取れる日を選んで訪れることにしました。展示は10月27日から11月8日までの4期となっています。

まずは1章「プロフィール」。《双鶴図》と《鶴亀図》から始まります。そして双幅の《双鶴・霊亀図》。鶴と亀の愛嬌のある表情に惹き込まれます。卵形の鶴の造形も見事。3章「動植彩絵への道」では《雪中遊禽図》が鮮やかで素晴らしい。《隠元豆・玉蜀黍図》は4期のみの展示という作品。

4章は展覧会と同じタイトルの「若冲ワンダーランド」、同展のメインセクションということになります。ここにはなんとプライス・コレクションの《鳥獣花木図屏風》が来ています。2期から4期までの展示。もちろん、2007年の若冲と江戸絵画以来の再会です。よもやこの作品と再会することがあるとは思っていませんでした。寒山拾得や伏見人形など特徴的なモチーフの作品も並ぶこのセクションで特に秀逸なのはやはり《雨龍図》でしょうか。龍の表情はかなりのインパクトです。

いよいよ6章「象と鯨図屏風」、同展最大の目玉の登場です。陸の王者と海の王者を対比させた見事な六曲一双。特に象の表情が最高です。なかなか前を離れることができず、ずっと見入っていました。解説によれば享保13年(1728年)6月に広南(ベトナム)から長崎に到着し、翌年京都で天皇に謁見したという象を少年だった若冲も見ていたのではないかということで、この出来事を記録した絵巻物やかわら版などの資料も合わせて展示されています。

総出品数は127点ですが、一期ごとの展示数はそれほど多いわけではありません。若冲展だけなら観るのにそれほど時間はかからないでしょう。しかし、目玉の《象と鯨図屏風》を中心になかなか見応えのある展覧会になっていたと思います。

地下に移動して南館は常設展となりますが、今回は特別展としてオクサスのほとりよりが開催されています。古代中央アジアの文化を紹介する展覧会で、同館とタジキスタン共和国国立考古博物館の所蔵品で構成されます。

常設展は南アジア、西アジア、ギリシャ・ローマ、そして1階に上がってエジプトと各地域の至宝を展示しますが、これがまたすごい。南アジアではパキスタンの《ガンダーラ仏立像》や《仏頭》、エジプトではプトレマイオス朝の《アルシノエII世像》や第19王朝の《隼頭神像》などなど同館が誇るお宝がこれでもかと並べられます。日本の美術館じゃないみたい。このコレクションはとんでもないレベルです。

日本で本当にお金があるのは実は国家でも大企業でもないことをあらためて認識した1日でした。平日にも関わらずそこそこの人出がありましたが、施設の性格上、団体で訪れる鑑賞者が多いようです。またMIHO MUSEUMは2007年に刊行された外国人観光客向けのミシュランガイドで全国で51ヶ所の三ツ星観光施設の一つに選ばれており、外国人の多さも特徴的です。開館時間は午後5時までで夜間開館のない同館ですが、このような客層からか3時を過ぎたあたりからずいぶんと人が少なくなっていきます。早い時間帯よりも逆に狙い目かもしれません。

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若冲ワンダーランド
MIHO MUSEUM
2009年9月1日―12月13日

オクサスのほとりより 東西文明の架け橋・古代中央アジア
2009年7月11日―12月13日

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2009年11月 1日 (日)

チンギス・ハーンとモンゴルの至宝展@松坂屋美術館

古代から近代までのモンゴルの文化を紹介する展覧会。モンゴルというと歴史的にはチンギス・ハーンが1206年に建国したモンゴル帝国、そして子孫のフビライが1271年に興した元朝をまず思い浮かべがちですが、同展ではモンゴル帝国の前後、すなわちチンギス・ハーン以前の草原遊牧民族の文化、そして元滅亡後のモンゴル民族の文化についても偏りなく紹介していきます。

一方、地理的には現在のモンゴル国は外モンゴルということになり、今回は中国の内モンゴル自治区博物館の所蔵品による展覧会となっています。この内と外という区別は清朝の支配下にあった時代に生まれたもの。内モンゴル自治区博物館は13万点にも及ぶ民族歴史文物を所蔵する大博物館。出品数は約120点。昨年8月に大阪をスタートし、三次、盛岡、岡山、札幌、福岡、新潟、名古屋、東京、山梨と来年5月までに10会場を巡回するロングランです。

まずはモンゴル帝国以前ということで、東胡(とうこ)、匈奴(きょうど)、鮮卑(せんぴ)、突厥(とっけつ)、契丹(きったん)の5部族の装飾品などを展示。紀元前から12世紀までと非常に長い期間を一気に観ていくわけですから大味にはなってしまいますが、匈奴の《鷹形金冠飾り》や鮮卑の《金製鹿頭形冠飾り》、《金製竜形首飾り》などの輝きはすごい。契丹の馬具一式も見応えがあります。

同展のメインはやはりモンゴル帝国のセクション。最盛期には西アジアそして東ヨーロッパにまで版図を広げた大帝国です。黄金の装飾品や陶磁器などももちろん並びますが、何よりも《ナンジ織りの長衣》がいかにもという感じで雰囲気を伝えます。また、《銅鍍金菩薩座像》、《十字形銅杖飾り》、《イスラーム教徒の石棺の蓋》といった様々な宗教の文物が展示されていたのも印象的でした。

1368年、皇帝トゴン・テムル・ハーンは南方に興った明朝に追われ大都(北京)を放棄し北方へ逃れます。モンゴル高原で政権は持続しますが、中国史的には元朝が明朝に滅ぼされたということになります。明朝の間、北元は一旦王統が途切れながらも持続しますが、1636年には清朝の支配下に入ってしまいます。1911年に清朝が崩壊すると外モンゴルはモンゴル国(ボグド・ハーン政権)として独立を果たし、その後のモンゴル人民共和国へとつながっていきます。一方、内モンゴルは中国領土として現在の自治区となるのです。ここでは様々な部族の女性の衣装が目を楽しませてくれます。最後は馬頭琴(モリン・ホール)の音を聞きながら出口に向かいます。

異国の文明、文化を扱う展覧会はやっぱり面白いですね。いろいろと勉強になります。身近なようで意外と知らないことばかりの国、モンゴル。この地域の文化についてこれだけ触れられる機会はなかなかないと思われます。好企画と言っていいでしょう。

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中国・内モンゴル自治区博物館所蔵
チンギス・ハーンとモンゴルの至宝展
松坂屋美術館
2009年10月31日―12月6日

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